積み上がり過ぎた純資産と現金
図書印刷の純資産が積み上がった理由の一つとして、図書印刷が保有しているリクルートホールディングス株式(以下「リクルート株式」といいます。)が挙げられます。図書印刷のその他有価証券評価差額金は、税引き後の保有株式含み益に相当し、ほぼリクルート株式の含み益によるものです。2019年1月末現在では、保有しているリクルート株式の時価が、ほぼ図書印刷の時価総額に相当します。
図書印刷の純資産の内訳と時価総額の比較
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うちその他有価証券
評価差額 259純資産 759 -
300純資産 787
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371純資産 855
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258純資産 748
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410
- 2018/03現在
- 2018/06現在
- 2018/09現在
- 2018/12現在
- 2019/1月末現在
時価総額
(単位:億円)
(データ出所:有価証券報告書、四半期報告書、2014年10月22日付の図書印刷と凸版印刷が共同で提出したリクルート株式に関する大量保有報告書)
また、図書印刷は有利子負債をほとんど保有していないことから、事実上無借金の状態であるといえます。税引き後の現金同等物から有利子負債を減じた金額であるネットキャッシュは、2018年12月現在で536億円となります。時価総額とネットキャッシュを比較すると、時価総額はネットキャッシュの0.76倍となっており、過度にキャッシュリッチな状態になっていると言えます。
なお、このキャッシュリッチな状態は、2014年10月のリクルート株式の上場よりも前から続いていました。例えば、リクルート株式上場前の2014/3期現在では現金53億円、短期有価証券74億円、投資有価証券42億円に対して有利子負債は8億円に過ぎませんでした。
図書印刷の2018年12月現在ネットキャッシュと2019年1月末時価総額の比較
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その他固定資産
225(21.3%)投資有価証券
422(39.8%)その他流動負債
184(17.3%)有価証券
178(16.8%)現金50(4.8%) -
純資産748
(70.6%)その他固定負債
136(12.9%)流動負債
172(16.2%) -
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- 現金
- 50
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- + 有価証券
- 178
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- + 投資有価証券
- 422
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- ー 有利子負債
- 3.5
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- ー 支払い税金
- 111
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- 536
536 -
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410
- 資産
- 負債・純資産
- ネット
キャッシュ - 2019/1末現在
時価総額
(単位:億円)
(データ出所:第3四半期報告書。ネットキャッシュの支払い税金は、次の算式により弊社推計:支払い税金111億円=その他有価証券評価差額金258億円×実効税率30%÷(1-実効税率30%)
有利子負債3.5
(0.3%)
図書印刷の純資産(2018年12月現在)、時価総額(2019年1月末現在)、ネットキャッシュ(2018年12月現在)を並べると下図のようになります。純資産価値対比で時価総額は約半分となっており、図書印刷株式の価値は著しく過小評価されています。
純資産、現金を積み上げると、過剰な資金余力ができて経営に対する緊張度が減少します。しかし、我々株主としては、経営者に一定程度の緊張感を持っていただき、積み上がった純資産、現金を適正化していただきたいと考えています。資本を有効に利用することを通じ、ROEを改善し、株主価値を向上させることの方が株主価値にとっては重要です。
図書印刷の異常なバランスシート構造と時価総額の関係
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純資産
748億円 -
時価総額
410億円 -
ネットキャッシュ
536億円
- 2018/12現在
- 2019/1末現在
- 2018/12現在
(データ出所:第3四半期報告書)
後述の図書印刷の中期経営計画にはバランスシートの目標値がありません(2020年3月期のROE目標1.7%のみ開示)。弊社は、リクルート株式の売却資金を株主に還元することによって資本効率を改善していくことを求めていますが、図書印刷としては、「現在の3年間の中期経営計画後の成長投資のための財源としてリクルート株式を保有していたい」という考えが本音です。過大な投資を見直すべきときに、なぜさらなる成長投資の財源を気にする必要があるのか理解に苦しみます。
理解し難いリクルート株式保有目的 〜2018/6 株主総会より〜
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リクルート社が、株式を保有してもらっていることを理由として印刷の注文を当社に出してくれているとは思えない。 印刷事業を伸ばす、又は利益率を向上させるなら、品質や付加価値で、顧客から選んでもらい、利益率を向上させることが本筋。いつまでリクルート株式などの 政策保有株式で400億円に近い資産を固定しておくのか。
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- 矢野専務:リクルート社の株式は、私共の非常に大きな財産であると考えている。現在の中期経営計画の投資のための資金は十分に備えてある。リクルート株式は、将来の成長のための投資が考えられるときの財源として取っておきたい。
- 川田社長:リクルートは紙(媒体)だけではなく、デジタル化の市場にも出ていく。当社の財産として今後のために持っておきたい。
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当社は上場企業であり、家計ではない。株主から預かっている資本をいかに効率的に使って利益をあげるか、これが上場企業の使命である。何に使うか判らないのに、将来のためにただ取っておきたいというのは、やめて欲しい。 だから、当社の資金効率が悪い、資本効率が悪い、ROE が低い、自己資本が積み上がる、との結果になってしまう。資本効率を高める、との原理原則を良く理解していただきたい。