具体性に乏しい中期経営計画
図書印刷は2017年2月27日に中期経営計画(事業計画・数値目標)を発表しています。この中期計画は3年間の計画であり、位置付けとしては、第1ステージから第3ステージまでの3つのステージからなる合計9年間(1ステージ3年間×3)のステージの第1ステージとなっています。
- 中期経営計画説明会資料
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第2ステージおよび第3ステージの最終年度の具体数値目標は開示されていません。しかし、第1ステージの最終年度目標は開示されています。
項目 | 実績 | ||
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2017年3月期通期 | 2018年3月期通期 | 2019年3月期第3四半期累計 | |
売上高 | 538億円 | 600億円 | 378億円 |
営業利益 | 2.8億円 | 0.6億円 | 季節性により 赤字 |
営業利益率 | 0.5% | 2.0% | |
EBITDA | 20億円 | 18.7億円 | |
EBITDAマージン | 3.7% | 3.1% | |
特別利益除く ROE(※) | 0.87%(※※) | 0.57%(※※※) |
第1ステージ終了時点 |
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2018年3月期〜2020年3月期 |
600億円 |
12億円 |
2.0% |
54億円 |
9% |
1.7% |
※当期の経常利益×(1-想定税率 30%)÷前期及び当期の平均自己資本額にて算出、特別利益の影響を除くための計算
※※2017 年 3 月期の特別利益含むROEは 16.9%。特別利益は、リクルート株式の一部売却による約 164 億円。
※※※2018 年 3 月期の特別利益含むROEは 1.2%。特別利益は、関係会社株式の一部売却による約 7 億円。
以下は図書印刷の中期経営計画説明資料からの抜粋です(上記URLの36ページ)。第2ステージおよび第3ステージに関して、営業利益および償却費を加算した営業利益(EBITDA)は非常に堅調に推移していくイメージとして表現されています。
2025年度までの9年間における業績イメージ

しかしながら、数値目標を達成するための事業計画に関しては、具体性に乏しく、さらに投資計画の進捗も 遅々として進まない状況です。株主総会における中期経営計画に関する質疑応答でも、図書印刷の経営陣はあいまいな回答に終始しています。
事業構造転換に関する考え方
図書印刷の開示資料
投資項目 | 投資額(億円) | 内容 | |
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事業構造転換 | 生産業務効率化 | 100 | ・基礎システムの全面印新 ・製本工程の省力・省人化設備 ・小ロット向け印刷機・加工設備 |
受注拡大・新商材開発 | ・高付加価格印刷機・加工設備 ・ショートランビジネスモデル開発 |
投資項目 | |
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事業構造転換 | 生産業務効率化 |
受注拡大・新商材開発 | |
投資額(億円) | |
100 | |
内容 | |
・基礎システムの全面印新 ・製本工程の省力・省人化設備 ・小ロット向け印刷機・加工設備 |
|
・高付加価格印刷機・加工設備 ・ショートランビジネスモデル開発 |
(資料出所:2017年6月1日開催 中期経営計画説明会、弊社加工)
弊社の考え
- ■ 著しく低い利益率を改善するために構造改革を進めることは妥当な戦略と評価。
- ■ 喫緊の課題である利益率改善のため、構造改革を速やかに進めるべき。
- ■ また、図書印刷は、計画している構造改革による利益率改善がどの程度の影響なのか開示し、市場に情報発信を行うべき。
中期経営計画で示した構造改革投資のリターンについて回答しない経営陣
〜2018/6 株主総会より〜
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事業構造転換の投資は、本当にあと2年で80億円以上の投資を行うのか。
これらの100億円の投資により営業利益にどの程度貢献するのか、ご説明をお願いする。
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- 矢野専務:確かに1年目は15億強の投資であったが、ほぼ6~7割は発注済であり、残りについても発注仕様を詰めている。 収益の改善については、固定費・変動費の圧縮を図っていきたい。労務費、外注費、材料費等の原価率も下げていきたい。
(100億円投資によるリターン等の数値については答えず) - 川田社長:同旨の説明。
- 矢野専務:確かに1年目は15億強の投資であったが、ほぼ6~7割は発注済であり、残りについても発注仕様を詰めている。 収益の改善については、固定費・変動費の圧縮を図っていきたい。労務費、外注費、材料費等の原価率も下げていきたい。
事業領域拡大に関する考え方
図書印刷の開示資料
投資項目 | 投資額(億円) | 内容 | |
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事業領域拡大 | 印刷周辺事業 | 200 | ・メディア・プランニング、編集 ・制作・物流分野のM&A ・デジタルメディア分野への投資 |
文化・教育・事業 | ・ICT教育分野への投資 ・学校図書の事業領域拡大 |
投資項目 | |
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事業領域拡大 | 印刷周辺事業 |
文化・教育・事業 | |
投資額(億円) | |
200 | |
内容 | |
・メディア・プランニング、編集 ・制作・物流分野のM&A ・デジタルメディア分野への投資 |
|
・ICT教育分野への投資 ・学校図書の事業領域拡大 |
(資料出所:2017年6月1日開催 中期経営計画説明会、弊社加工)
弊社の考え
- ■ 当社単独で 200億円の投資を行うことは過大であり、事業領域拡大を行うとすれば、凸版印刷グループ全体で意思決定を行うべき。
- ■ 2018年10月に中期経営計画期間中初めて買収できたのは小規模な教科書出版会社1社のみであり、11億円しか投資できていない。
- ■ 2018年11月に追加で買収した企業は、語学研修サービス会社で、13.2億円の投資であった。
投資採算の観点から、語学研修サービス会社の買収は当社の企業価値を棄損するものであると評価しており、事業領域拡大投資を一刻も早く停止するべき。(リンク:弊社が図書印刷に行った最近の提案)
無謀な成長投資計画に固執する経営陣
〜2018/6 株主総会より〜
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1年が経過した現在(200億円の投資計画のうち11億円しか投資できていない)、少なくとも事業領域拡大の投資額は、減額修正すべきではないか。利益についても、方針又は数値目標を変更すべきではないか。達成がほぼ難しいと判った時点で速やかに計画を修正するのは当然である。1年経った現在、あと2年を無為に過ごすことなく、経営計画を修正すべき。
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- 矢野専務:現在、中期経営計画の実行に取り組んでいる真最中である。積極的に活動しており、今の目標を目指して頑張っていきたい。
- 川田社長:投資計画の迅速な実行をしていく。